昨日の「総力報道!THE NEWS」特集"カンガルーケアに警鐘"は報道姿勢がかたよったものでしたので、多くの人の誤解を招かぬよう過去のカンガルケアーについて書いた記事を再投稿します。
カンガルーケア#1 動物編プロラクチンロード
出産後、しばらくの間お母さんのお腹や胸の上で抱っこすることによって母子間の絆や赤ちゃんの免疫力を高め、お母さんの子宮の収縮をスムーズにするための方法です。
その抱っこのタイミングや状態をカンガルーの出産の形態になぞらえて、カンガルーケアと呼んでいるようです。
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そこで今日はカンガルーのお産について書きます。
カンガルーは117種いる有袋類の一種です。皆さんがご存知のようにメスのおなかに袋(育児嚢)があり、その中で子供を育てるオーストラリアの代表的な動物としてよく知られています。
カンガルーをはじめとする有袋類の胎盤は他の哺乳類に比べ未発達です。卵の栄養分を使い果 たすと、妊娠後、約4〜6週間で未熟な状態の胎児を産み落とします。
マッチ箱程度で毛も生えてなく、目も見えない、耳の穴もあいていない赤ちゃんは、母親がおなかから袋までの道のりをなめた匂いを頼りにして這いのぼり育児嚢に入ります。赤ちゃんの手はとっても発達しているそうです。そこで、袋に入った赤ちゃんは自分で決めた一つの乳首にすいつきます。
この光景を一度テレビで観たことがありますが、胎児が母親の作った道を臭いを頼りに一歩一歩進む姿は生命力に満ち溢れ不思議で感動的なシーンでした。私の個人的な興味を引くのは、胎児を導くこの臭い成分は一体何で出来ているのかということです。
残念ながら母カンガルーが臭いの道を作る一連の行動を思い出せません。しかし、私は母親の唾液が主役というよりは破水と同時に出た羊水か羊膜を舐めて臭い付けを行うのではないかと勝手に想像してしまいます。そして子宮内から乳首までを結ぶ臭い成分の中にオッパイ成分であるプロラクチン*1が含まれているように思えてなりません。子宮内で馴染んだプロラクチン成分が臭いの記憶として役立ち乳首へと導いている気がします。
勝手ついでにその臭いの道をプロラクチンロードと名づけます。次回で人間のプロラクチンロードの可能性について書き込みます。
さてカンガルーの赤ちゃんは、ある程度大きくなると、乳首から口をはずして袋から顔を出すようになります。子供が袋から出て生活をするのは 、これまた種類にもよって異なりますが早いもので7〜8ヶ月後、遅いものだと18ヶ月後です。
ふーん・・・、オッパイ好きで乳離れしないのは人間の赤ちゃんだけではないのですね。
カンガルーケア#2 人間編プロラクチンロードは続くへ
カンガルーの赤ちゃんは母親が舌で舐めた袋までの臭いの道を辿り、オッパイに吸い付くわけです。この営みをヒントに名づけられたのが、誕生したばかりの人間の赤ちゃんをお母さんのお腹や胸元で抱っこさせてあげるカンガルーケアです。
その目的は子宮から外の世界へと劇的な環境の変化を体験する赤ちゃんを心身ともにサポートすることです。例えば羊水温度37度の世界から突然クーラーの入った23度の室温へと環境を移せるほどに、赤ちゃんの体温調節機能は出来上がっていません。
赤ちゃんの低体温は医学的に深刻な状況を作りかねないので、お母さんの肌のぬくもりで低体温を防ぐことが大切な目的の一つです。そして何よりも胎児時代から馴染んでいる母親の心蔵の鼓動を聞くことで安心感が得られ、自然治癒力も高まると言われています。
さて、このカンガルーケアは誰が促すのでしょうか?ケアを実行するのは誰でしょうか?赤ちゃんを取り上げた医師、助産師、それとも母親自身の手によってされると、ほとんどの方がそう思っていることでしょう。
しかし、カンガルーの赤ちゃん同様の能力が人間の赤ちゃんにはないとは言えないのです。
エスキモー達の古くからの風習に、誕生したばかりの赤ちゃんが自力でオッパイまで辿り着くことを見守る儀式があったようです。力強く生きて欲しいとの祈りがこめられてのことでしょう。そこには生れて来た赤ん坊が持っている生命力への信頼がうかがえます。
さて、この話を本で読んだ産婦が自分の赤ちゃんにも是非体験させたいと考え、自宅出産でそれを実行しました。1時間近くかけて少しづつ這い上がりながらオッパイへと辿り着いたその女の子はとても生命力に溢れています。私が会ったのは0歳時のときでしたが、お母さんを求める気持ちに正直でまっすぐなものを感じました。
この儀式に立ち会ったのは夫、3人の兄弟、助産師2人です。生れたばかりの赤ん坊の逞しさは、じっくりと見守ることで皆の目に克明に刻まれたことでしょう。
長男は毎日の筋力トレーニングとマッサージを欠かすと筋肉が硬直してしまう先天性の病気を持っていました。
その長男が誕生してきた妹に、か細くポツリとかけた言葉は「生れてきて、ありがとう」だったそうです。
できるだけケアを施さないお産は命の豊かさや逞しさ優しさを感じられる世界かもしれません。そして、この話を思い出すたびに人間のお産はケアと名のつくものがどこまで必要なのか?を考えざるをえません。近年カンガルーケアによって母子分離を作らない方向性が、その後の赤ちゃんの発育や産後の母体の治癒にも関わって行くと実証されつつあります。出産への医療介入や管理される世界からの脱却が広まりつつあり、より自然なものに近づいてると感じます。
産後乳首を吸ってもらうとお母さんの子宮は「お疲れ様、ご苦労様でした。これまでありがとう」とねぎらいを得ることができます。胎盤を通して繋がっていた血流の絆は母乳という絆へと移り替わりましたよと、DNAのスイッチが切り替わることで子宮に役割の終わりを告げることができるからです。
乳首を赤ちゃんから刺激されると子宮は妊娠前のそれに戻ろうとします。このことを知っている助産婦達にとっては、カンガルーケアと呼ばずとも昔から馴染みのあるケアが抱っこと乳首を含ませるプロセスなのです。そこで、オッパイを含ませることを重要なケアの一つとして説く助産学もあります。さらに一歩踏み込んでそのケアそのものも見守ることで促して行く方法もありだなと、感じます。
プロラクチン*2は白い血液です。胎児時代の赤い血液が白いオッパイという血液に替わり、子どもを育んでいきます。色は変わりますが臭いはすでに胎児時代に馴染んでいるものです。ある科学者は臭いの血流内記憶という言葉を使って視覚が発達していない段階での子どもが母親を認識する能力は、聴覚と併せて嗅覚によるものだと説明しています。
興味深いことは母親の声とオッパイの臭い"プロラクチン"は赤ちゃんの頭上から降り注いでくるものだということです。それに反応し、這い上がって行くためには赤ちゃんの記憶の中にあり、すでに馴染んだ声と臭いでなくてはなりません。
赤ちゃんがお母さんの声と臭いに気づき、聴覚と嗅覚の二つの感覚器官を使う猶予を与えてみて欲しいなと、思います。
臨月になると母親の血液中でプロラクチン量は高まります。産後の育児準備が始まるわけです。プロラクチン臭い成分の中に鎮静効果があり、母親自身の眠気を誘うこともわかっています。子宮内の羊水の中でプロラクチン量そのものが増え、臭いも変化していくことでしょう。
お産の前になると胎児はめっきりおとなしくなることがあります。その状態を目安にそろそろお産が近いよとの、表現もよく耳にしますが、この時代の胎児は案外プロラクチンアロマ効果で、まどろんでいるのかもしれないなあ、と考えたりします。
カンガルーのように臭い付けをしてプロラクチンロードを作らなくとも、私達人間の赤ちゃんにもその能力が備わっている可能性を信じたいと思います。それがケアを出来るだけしないお産の方向性から、見えてくるかもしれません。
そのためには私達は生命の力そのものをもう一度、自分の中に見出す必要があるかもしれません。実は妊婦さんはその機会に恵まれる人達だろうと思えるのです。文字通り自分の中に命が宿るプロセスを感じられるわけですから。

